購入価格 ¥1680, A4判ムック149頁
雑誌サイクルスポーツで、2009年11月号から2年ほどにわたって連載された大前仁氏の 『 匠の技を訪ねて 大前仁の工房巡礼 』 を一冊の本にまとめたのが、コレです。ただし、単にまとめただけではなく、オーダー方法のわかりやすい解説や新しいコラム、それから、連載時には載らなかった写真(ハンドメイドバイシクルフェアに出品された自転車のもの)も数多く載っていて、大変役立つ書籍です。
この本を読めば、日本で活躍するフレームビルダー各氏の自転車に対する考え方、情熱、技を、すべてではありませんが、知ることが出来ます。また、ビルダーの人物像から予算まで、結構詳しく書かれているので、これからフレームを、自転車をオーダーしてみよう、という方にはとても役立つ、なかなか素晴らしい本です。
オーダーしてみようかな、と考えている方は、一通り読んでみて、自分の考えを共有してくれそうだとか、ここでつくってみたい!と思えるビルダーが見つかったら、57ページのコラム 「オーダーの敷居は高くない」 を読み、一度、連絡をとって、訪れてみるとよいでしょう。
なお、オーダーの詳しい手順などは、サイスポでもこれまでに特集されたことがあります。それも含めてこの連載をちゃんと保存しているような方には、この本をわざわざ購入する必要がないか、というと、そうでもありません。100台を越える自転車の写真は、大変貴重で、これを参考にしない手はないでしょう。
人間の息遣いが感じられる、素晴らしい本です。
価格評価→★★★★★
評 価→★★★★★
出版 2012年7月
ところで、大前氏のこの連載からず~っと遡って、1998年から3年ほどにわたってサイクルスポーツで長らくフレームビルダーを取材し連載したのが、「現代の匠」シリーズでした。テキスト担当は30歳になるかならないかの若き日の菊池武洋氏。随分と骨のある仕事を任されたものです。そして連載第一回目のビルダーは、大前仁氏の連載と同じく、牧野政彦氏でした。(ただし書籍ではケルビムが最初に登場していますが・・・) 恐らくあのころが一番、一般ユーザ向けスチールフレームの将来に暗雲がたちこめていた時代のような気がしますが、いずれにしても、そんな冬の時代を生き抜いてきた、鉄系の男たち。そんな素晴らしきビルダーさんの中からこの23名が大前氏の本に登場した、というわけですね。(いろいろな事情で、取材を丁重に断ったビルダーさんも多分、おられると思います)
菊池氏の連載開始の1998年からすでに14年。
時が経つのは早いものです。
というわけで、キャリアの長いビルダーさんは皆、比較的ご高齢なんですね。牧野政彦氏は現在58歳。ということは1998年の連載当時は44歳ということでしょうか。ニューサイクリング誌1977年の10月号で三連勝のスタッフとして自作の超軽量ヒルクライムマシンで登場していますが、その時は、23歳、ですか!
1983年と2010年、私が2本お世話になり、再塗装も度々お願いしている細山製作所の細山さんは現在、66歳。最初にオーダーしたのは、細山さんの開業から2年後ですが、当時の細山さんは37歳。自分のロード自転車歴は、あの工房の歴史とシンクロしているのか、と思うと、親しみがわきます。この本の中で細山さんは、
「あと10年は楽勝でやれる」
とおっしゃっておられますが、もしかしたらあと10年で細山製作所が店じまいしてしまうかも知れない、と思うと、今から何だか寂しい気持ちになってしまいます。
ビルダーさんと自分、そして誰もが着実に歳をとり、ゴールを目指して炸裂する強者たちの若い力も、いずれ遠い思い出となります。しかし、30年乗りつづけたとしても、消耗品を交換し、疲れた塗装をリフレッシュすれば、いつまで経っても、
スチール自転車は現役マシンとして輝き続ける
のです。
スチール自転車。何と不思議な存在なのでしょう。
ハンドメイドに興味を持つ方や、鉄系自転車に興味を持つ方は、読んでみて損はない本でしょう。
そして、148ページの大前氏の文章
「おわりに」
これが、この書籍の価値をさらに高めています。
ツーリング車専門の店舗まで構えてしまった、ツーリングの人にして自転車ライター&カメラマンである大前仁氏の、スチール自転車への愛が溢れる一冊でした。