斎藤 純「銀輪に花束を」小学館文庫
購入価格 文庫本定価457円(税別)
同氏の著作に初めて会ったのは、「暁のキックスタート」という、オートバイに関するエッセイであった。
かつてのホンダ・ヤマハ戦争の頃程ではないけれど、オートバイがそこそこ流行っていた頃であり、とは言え、少数派であることには変わりなく、どうしてオートバイに乗るのか?に関する理論武装を手助けしてくれる本だった。
実際、そこに書いてあることをオートバイを好きではない人に披露する機会はなかったが、「暁のキックスタート」を何度も、その時々気になる箇所を読み返しては、そうだよなぁ、とうなずいていたものだ。
その後、しばらくしてオートバイと自転車を両方楽しむ生活を経て、自転車一本になった頃、同氏の「銀輪の覇者」に出会った。
なんと、斎藤氏も自転車に?と驚いたものだ。
ただ、「銀輪の覇者」は、正直に言うと、満足できなかった。 寡黙である筈の主人公が饒舌であることに違和感を憶えたのだ。
自転車以外の蘊蓄が多すぎないか、という違和感もあった。
それからしばらく氏の著作に触れる機会はなかったが、つい先日、書店の文庫コーナーで「銀輪に花束を」を見付けた。 パラパラとめくり、小説だろうか、エッセイだろうか、と思いつつ購入。
会社での昼食時に読んでみた。 長くもない本だが、何日にも分けて、読んだ。
第一印象は、「相変わらずキザだなぁ」だった。 フリーホイールのラチェット音は、高級品の方が大きいって、それはどういう勘違いだろう、と指摘もしたくなった。
しかし、読み進むにつれ、そんな違和感は消し飛んでしまった。 なんだろう。
あぁ、これは、東北の自然と、東北に住み、東北を訪れる人への賛歌なのだ。
そして、自転車に乗り始め、自転車の楽しみに踏み込んだ人が、自分が知っていることがすべてだと思っていたのに、先達にその先を教えられる物語なのだ。 しかし、その教えは押しつけがましいものでは決してない。 じわりと染み込み、味わって初めて視界が広がるのだ。
登場する自転車も、ロードバイクに限らず、ランドナー、シクロクロス、車種も書かれぬ自転車がある。 しかし、車種はなんであれ、すべて「旅」の道具であり、相棒だ。 そういう描写をされている。
氏の、自転車と東北への思いが詰まった、これは珠玉の短編集だと思う。 旅が好きな人も、旅に出たい人にも、旅に憧れる人にもおすすめである。
しばらく、ランチタイムが旅の時間になった。
価格評価→★★★★★(よい買い物をした) 評 価→★★★★★
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