購入価格 ¥1365
21世紀初頭における自転車芸人の元祖?浅草キッドの玉袋筋太郎氏が書いた本・・・なのでレビューしてしまいます。(注:自転車芸人の元祖は、なぎら健壱氏(多分))
何かにつけてすぐにキレてみたり、筋違いのイチャモンをつけたり、片側一車線道路で平然と急停止してケータイを操作し始めたり、「どけ!」と言わんばかりにサイクリングロードと言う名の歩道をとんでもない速度で飛ばすロードがいたり、などと言う状況をよく見聞きするような気がします。これらは実は、周囲とのコミュニケーション能力の低下がもたらしたものなのではないか?
玉ちゃんはこの本の中で、コミュニケーションの重要性を繰り返し訴えています。
「日が長くなってきたねぇ」とか、「おまけしとくよ!」などというやり取りがしょっちゅう聞こえていた、とか、よその子でも叱ってくれるおっちゃんが・・・とか、前書きで書かれていますが、そんな人と人のつながりや、商店、場所が消滅しようとしているようです。玉ちゃんはそれらを、絶滅危惧種と名付け、絶やしてはならないし、後世に語り継がねばならない、と訴えます。
全国のトラック運転手が立ち寄る、神奈川県足柄郡の峠の食堂「一休食堂」には入り口脇にシャワー室があり、長距離運転でクタクタの運転手への優しい気配りが。そして腹を満たして勘定をすませる際には「おやすみなさい」と送りだされ、駐車場で仮眠もできてしまう。そして仮眠の後にはコーヒーまで出してくれるといいます。まさに心の通った客商売の神髄。
こんな風に面と向かったコミュニケーションで癒されれば、ここの店主を盛りたててやろう、と思うようになるでしょう。
・・・鳶職専門の名入れ職人や、小人マジシャン、もつ焼き屋の大将等など、味わい深い人物への玉ちゃんのインタビューが続きます。
ところで、数年前の話ですが、札幌の私の知人が仕事で東京に来て、朝10時の15分ほど前に、前から行ってみたいと思っていた上野の某有名自転車チェーン店に立ち寄ったところ、こんな対応があったそうです。
「入ってもいいですか?」
「10時開店です」
「あのー、ちょっと遠くから来ていて今しか時間がないのですが、どうしても探したいものがあるのでちょっと見させていただくわけにはいかないでしょうか?」
「ダメです。うちの規則ですから。」
結局この知人、仕事の時間の都合で見るのを諦め、そのチェーン店はそれっきりだそうです。知人曰く「開店準備で忙しかったんだろうな」
経営効率ばかりが優先され、マニュアルに縛られ、臨機応変の対応が効かないチェーン店ばかりが増殖し、どの地方に行っても郊外には同じ大型店が同じように出店している今日この頃、世の中はどんどんつまらない方向に向かっている、とは感じていましたが、玉ちゃんのこの本を読んで、その思いは強くなり、玉ちゃんの主張に深く共感しました。
それにしても、玉ちゃんのインタビューは、相手の懐にスーっと入っていくようです。インタビューされる方も気持ち良く話しているのが、よくわかります。玉ちゃんの文章は本当に素晴らしい。そよ風が吹いているようでもあり、可笑しくもせつなくもある。そしていつまでも残ります。
玉ちゃんって、いいですねぇ~。
価格評価→★★★★★
評 価→★★★★★