購入価格 ¥4,800
J Sports Broadcasting
ドルビーデジタル 2ch 日本語字幕 4:3スタンダードサイズ リージョン2
「動くエディ・メルクス」を観られる貴重な(と評される)DVD。
過去のレースを走るメルクスの映像、現在のメルクスへのインタビュー、その他、ベルナール・テヴネへのインタビューもある。
私は2008年のサイクルモードでメルクス氏本人を2mくらいの至近距離から見ることができたが(
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=4326&forum=120)、このDVDでは彼の肉声も聞けたのが嬉しかった。意外にも、と言ったら失礼だが、非常に繊細で思慮深げに語る人で、こんなに怖そうな外見なのになんだかものすごくまっとうな人だな、と思いました。
作品全体の雰囲気はさすがに古めかしいところがあり、レースシーンでは1980年代のテクノ風の同じ曲がずっとかかっていたりすので、見ていると眠くなる(笑)。101分のDVDなのに、全部見るのに三日かかった(が、退屈だったからではない)。
動くメルクスの姿は勿論一見の価値ありですが、個人的に印象に残ったのはインタビューから伺えるメルクスの「まっすぐな人柄、嘘がつけない性格」でした。例えば・・・・
(あなたは勝利を譲りませんね、と記者に聞かれた若きメルクス)「僕は贈り物はやらないし、受け取ろうとも思わない。ピンチになったら助けてもらえないけれど、それでも別に構わない」
(何のために走っているんですか、自尊心のためですか、お金のためですか、あなたお金が好きですか? と聞かれた若きメルクス)「僕はお金が好きだよ。もちろんお金のためだけに走っているわけじゃない、でもプロだからたくさん稼いでいい生活がしたい、誰だってそうだろう」
上記の二つの質問のバックグラウンドには、ある種のステレオタイプが感じられた。ロードレースのチャンピオンたるもの、たまには苦戦しているライバルに勝利を譲って余裕を見せるべきであり、レースは自尊心を満たすために走るべきもの。決してカネのことなど考えるべきでない、というステレオタイプ。私は、こうした質問をする記者がとても意地悪だと思った。と同時に、最近の日本で叩かれまくった二人の才能あるアスリート、大相撲の朝青龍とスノーボードの國母和宏のことを思い出したりした。
メルクスはかつて「カンニバル」と呼ばれ、嫌う人も多かったようですが、私はこの人の愚直ともいえるほどまっすぐな性格にさわやかな感動を覚えました。この人は生まれながらの天才というやつだったのではないか(作曲家で言うならモーツァルト、ピアニストで言うならグレン・グールドみたいな人)。
ちなみに西ヨーロッパでは昔から現代に至るまで、一般に「カネ」とは汚いものであるという認識がある(金銭はユダヤ人排斥の口実の一つにも使われた)。だから、フランス語で「あなたはお金が好きですか? (Vous aimez l'argent?)」と聞いたインタビュワーにはやはり「ワイドショー的な悪意」を感じてしまうが、それに対して「カネは好きだよ。プロだから稼ぎたいんだ」と答えたメルクスのバカ正直さがおもしろかった。と同時に、こんなに正直で無垢な性格だとさぞ苦労しただろうな、とも思った。
若きメルクスはものすごい記録を残した選手なわけですが、やっぱり普通じゃない選手はちょっと人間的に変わっているのだなと思いました。ただ、変人とかそういうのではなく、ある意味で現代の我々よりも、ずっと普通でまともな人だったのではないか。「走りたい。勝ちたい。稼ぎたい。」というシンプルな原則で生きていたメルクス・・・などなど、自転車だけでなく人生のことまで考えさせられる映像作品なのはさすが。
メルクスやテヴネは仏語で話しているが(字幕あり)、全体のナレーションは英語。DVDの箱には書いていないが、ナレーションの声は間違いなくフィル・リジェット(よくツール・ド・フランスの実況をやる英国人)。気分が盛り上がる。
ちなみに、単にレースシーンをガンガン観たい、という人には少し退屈かもしれない。シクリスムの歴史に興味がある人は、まず退屈しないだろう。
価格評価→★★★☆☆
評 価→★★★★☆ 4.5 このシリーズの他のDVDも気になる