購入価格 約¥2300(wiggle)
Park ToolのBig Blue Book of Bicycle Repairと並び、恐らく世界で最も有名なメンテナンス本である。ただ、ロードバイクに特化した内容となっている。著者名はLennard Zinn。
「ジンとロードバイクメンテナンスの技法」という本書の題名だが、実はパロディである。ロバート・パーシグというアメリカの作家による、「禅とオートバイ修理技術」(Zen and the art of mortorcycle maintenance)という有名な哲学小説があり、それをもじっている(この不思議な小説についてはいずれレビューしたい)。
「禅とオートバイ修理技術」という小説について一言で語るのは無理があるが、あえて一言でそのテーマを説明すると、「全ての事象を明晰に分解・分析しようとする古典的(classic)精神と、テクノロジーは自分の手に負えない、忌避すべき対象であるとするロマン派的(romantic)精神の対立」を扱った本であったように記憶している。
たとえていうと、オートバイが急に動かなくなったとする。その時、あなたは落ち着いて原因について考え修理を試みるか、それとも動くようになるまでエンジンをガンガン足で蹴るか、どちらだろうか、という話(そんなに簡単な話ではないが、簡単に言うとそう)。そういう異なる二つのアティテュードが現代社会には存在する、という考えが、名著「禅とオートバイ修理技術」の主旋律となっている。
本書「ジンとロードバイクメンテナンスの技法」は、小難しい本では全くないが、ヘッドパーツやハブその他パーツの詳細な分解図が収録されているのを見ると、「禅とオートバイ修理技術」のエッセンスを汲んでいるのがわかる。謎めいたものは、とにかく分解して説明。難しいとかめんどくさいとか言わせないぞ、というわけだ。エルゴパワーの分解図まで手描きのイラストで紹介されている。
本書の最大の特徴は、その手描きのイラストである(写真は一枚もない)。BBの分解図イラストだけでも6種類、ペダル軸の分解図もTIME, Shimano, LOOK, Speedplay, Crank Brothersといった主要メーカーの代表的な10モデルが描かれている。ブレーキもキャリパー、カンチ、Vの三種類を網羅。全420ページあり、シマノ・カンパ・SRAMの主要レバーの分解図がある。第三版ではなんと電動デュラエースの設定まで記述されているから驚きだ。当然、ホイール組みの解説もあるし、トルク管理の際に便利な数値早見表も付属する。
問題があるとすれば、これが英語版であるということくらいである。とはいえ、高校卒業程度の英語力で読めるので、興味のある人にはおすすめしておきたい。特に、これからの世界では外国語の一つもできないと生きていけないから、若いサイクリストは英語の勉強本として利用するのも良いだろう。なお、私は本書の繁体字中国語版も香港で見つけたので、購入しておいた。未来人ジョン・タイターの予言によれば、日本はやがて中国に侵略・併合されるらしいから、その時有利に生きられるよう、今から中国語を勉強しておいたほうが良いという判断からである。
この素晴らしい良書が日本語に訳されていないのは本当に不思議かつ残念なことである。この一冊があれば、えい出版あたりから出ている全てのロードバイクメンテナンス本は不要になると言って良い。自転車のメンテナンスが一部の人間にしか分からない秘教的な何かであるような錯覚に基づいた、勿体ぶったハウツー本とは対極に位置する良書である。自転車に謎はない。そのことが、よくわかる本だ。
あ、だから翻訳されないのか・・・
価格評価→★★★★★
評 価→★★★★★