購入価格 ¥1,300
2007年12月発売。書店で見かけることも稀になった。Amazon自身ももう在庫を持っておらず、登録出品者からの配送になる。他の大手通販サイトももう在庫を持っているところは少ないようだ。
本書には、ロードバイクのセッティング本とか専門誌の特集記事にありがちな「痛みを解消する魔法の係数0.いくつ!」とかいう大見出しは一切ない(フランスやドイツの競技団体が推奨する係数が紹介されている程度)拇指球の位置を探ってミリ単位でクリートの位置を決めるとか、足踏みしてみたときにどう着地しているかを見極めてクリートの角度を調整するとか、固定ローラー台に自転車を設置して跨がってみて、下死点でかかとの上り下がりを見てサドル高を合わせるとか、負荷の掛かる状態で数分間漕いでみて自然に腰が移動した場所がサドルの前後位置であるとか、地道に乗り手の身体的特徴を探り、時間をかけてミリ単位でコツコツ合わせてゆく、数式や係数ではないセッティング方法を紹介している。
ま、はっきり言えば、めんどくさい。数万円の固定ローラー台が必須だ。客観的な観察のためにビデオカメラなどもあった方がいいだろう。カメラの引きが取れる広い場所も必要だ。ビギナー向けにしては敷居は高い。ショップに頼む場合、このやり方でセッティングをしてくれるショップは、著者の藤下氏がアドバイザーを務めているつくば市のつくばマツナガか、さいたま市の北浦和スズキぐらいのものだろうと思う(本書でモデルを務めているのが北浦和スズキの店長と店員さんだと最近知った)店も長時間セッティングに付き合うことになるし、乗り手も「お願いね」で店に預けて帰る訳に行かないから、工賃も安くはないし、やはりめんどくさい。
めんどくさいが、係数によるセッティングにはいろいろ問題が多いのも事実だ。たとえばサドル高を決定する係数、0.8いくつとかあるが、初心者は-2cm程度下げた方がいいなどと但し書きが付く。係数は小数点以下3位あたりまで指示している割に2cm程度の、とはえらくアバウトだ。それに、BB中心からサドル上面までの寸法なので、クランク長による違い、ペダル軸からペダル踏面までの距離、シューズのソールの厚み、インソールの厚み、体重によるサドルのたわみ、レーパンのパッドの厚みや変形などは一切考慮されていない。
細かい話のようだがそうではない。たとえば、ペダルによってはペダル軸中心からペダル踏面までの距離が11mmも違うケースがある。つまり、ペダル踏面が描く円軌道でみると、選んだペダル次第でBB中心の位置(仮想のBB中心位置になるが)は11mmもの差が生じてしまうことにもなる、ということだ。11mmといえば、置き場の水平を完璧に出して、ミリ単位でBB中心からのサドル高を合わせても、すべてが吹っ飛ぶ数値だ。さらにサドルやパッドのたわみ量なんて、どうやって測る?結局跨がって漕いでみた方が手っ取り早い。
他の諸条件が悪い方に重なれば、簡単に2cm程度の誤差は生じてしまうだろう。(あ、なるほど、だから係数方式は2cm程度とかって但し書きが付くんだ…)
もちろん、プロレーサーはこれをはるかに越える膨大なデータをメーカーから提供され、これを元に初期セッティングを行い、さらに時間をかけて、当日のコースや気象データまでも加味してそれこそコンマ数ミリ単位で詰めてゆくのだろう。欧州にはロードバイクのセッティングのみを生業とする業者もあると聞く。そう考えれば、本書で紹介している方法はまだビギナー向けだと思う。本書一冊ではまだ完璧ではないのだろう。いや、遠い道のりなんだねぇ…。
その他の内容として、DHバーの基本セッティングについてページを割いている点については、これからトライアスロンに挑もうという人には参考になるのではないかと思う。類書でDHバーのセッティングについて触れているものは殆どないからだ。
とはいえ2007年の刊行なので、紹介されているアイテムにも絶版品が目立ってきた。そろそろ、最新アイテムをフォローした改訂新版の刊行が望まれる。
改訂新版が刊行されるならば、アパレル関係のページで、国ごとに、メーカーごとに違うアパレル類のサイズ呼称や換算についてもフォローがほしい。これらのフィッティングも重要な要素だ。
筆者はロードバイクを買う前に本書を読み、ロードバイクってのはえらくめんどくさい世界であることをまず知った。これからロードバイクを買おうと思っている方は、自転車選びの前にまず本書を手に入れて、とりあえずなんかミリ単位とか細かくてめんどくさい世界みたいだな、ってことだけでも知ってほしいと思う。もちろん本書が本領を発揮するのは、ロードバイクを手に入れてからになるが…。
蛇足になるが、魔法の係数などという便利なものはこの世界にはない。近道と思ってもそれは結果として遠回りであることを知ってほしい。
大きなサイズのフォントで書かれた係数の小数点以下がいくつだろうと、そんなものにだけは流されないでほしい。
"魔法の係数"とは、執筆者や出版社が読者にかけている魔法のことなのだ。
価格評価→★★★★★(数十万円のフレーム選びに失敗することを思えば…)
評 価→★★★☆☆(どんなにいいものでも手に入らなければ意味はない。新版を望む)