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白鳥和也氏の短編小説4つから成る「自転車小説集」。
大変面白く読むことが出来ましたが、文学を理解する能力が甚だ欠乏している自分が読解するには少々疲れる風合いの小説集でした。最初の2編「CRANE」と「雑木林の丘」はすんなり読むことが出来ました。
3編目「丘の上の小さな街で」。
飯坂という地名が出てきますが、もしかしたら信州の飯田あたりが舞台なのでしょうか。旅行自転車の中空パイプキャリアが折れてしまう、というところから始まるこの短編は、所詮、小説など滅多に読まない私ではありますが、とても面白かったです。
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「丘の上の小さな街で」の中にこんなくだりがあります。
以下引用>
でも結局、俺は部には入らなかった。一、二回ほど、彼らの走行につき合わせてもらったが、人に合わせて走ったり、旅をするのは苦痛だということがわかった。そのシーズンの遠征地を部員で民主的に投票で決めるというのも馬鹿げていた。行きたいところに行くために、俺は野営旅行用の自転車を手に入れたはずだった。
>引用終わり
作者の白鳥氏は早稲田大学の出身のようですが、このくだりは、自身の大学時代の経験をそのまま書いているのではないか?と勝手に推測してしまいます。
ちょっと脱線します。
・・・1983年4月29日に遡ります。当時私は大学3年だったのですが、東京と神奈川の県境にある大垂水峠まで往復100kmほどの早朝サイクリングの復路、甲州街道(国道20号線)をダラダラと大垂水峠方面に走る、W○○○○Aという某大学名入りのお揃いの黄色いトレーナーを着た旅行サイクリング車の集団を反対車線に目撃しました。数名規模ではなく、かなり大きな集団だったと記憶しています。
「・・・この気温でお揃いの暑苦しい長袖で峠に向かうなんて、どこかの軍隊か?しかも、『仲間以外は皆、風景』的なダラダラ集団走行で、自転車をどれだけ贔屓目に見てもあれじゃ交通の邪魔。あー、ヤダヤダ。オレにはああいうの絶対、ムリ!!」
と強く感じたことを思い出してしまいました。苦笑です。
(脱線終わり!)
つまりこの小説集、どうしても作者自身の半自伝風にも思えてきて、作者はこういう経験をしてきた人なのではないか、という目で読んでしまいましたが、上の脱線話のように、私としては勝手に共感する部分も多くありました。
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いずれにしても、1970年代からの自転車パーツ知識が多少あると、読解がかなり助けられ、理解が立体的になる類の、少々面倒ともいえる「自転車小説」ではあります。読者が著者の自転車に対する造詣のベクトルの向きを多少理解する自転車乗りでないと、読み疲れしてしまうでしょう。
とはいえ、小説の骨格はあくまで、各様の背景をもつ登場人物たちの関係であり、自転車はそれらに密接に絡みつきはしますが、「自転車を描いた小説」というわけではありません。
ところで「シュペールシャンピオン」といった記述がでてきます。かつて存在したフランスのリムメーカーで、日本のロードマン、ロード乗りや雑誌が「スーパーチャンピオン」と呼んでいたそれのことでありましょうが、「シュペールシャンピオン」というカタカナ記述にピンとくるような人は古いロード乗りに限られるかも知れません。もう少し蘊蓄系の散りばめが少ない方がやはり、万人向けの小説になったのでしょうが、しかしそこは、「自転車小説集」。そんなことでケチをつけるのは筋違いというもの、でしょう。
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多分、一般的な小説ファンのこの作品への評価は辛口だと思いますし、今風の自転車好きの人にとっても何だかよくわからない小説、ということになってしまうかもしれませんが、小学5年生のときに買ってもらった5000円の中古自転車に始まって40余年、乗った自転車の数は知れていますが、今に至るまで飽きもせずサイクリングが好きな私としては十分、楽しめる「小説集」でした。
価格評価→★★★★★
評 価→★★★★★