購入価格 ¥失念
馬鹿野郎!
黙って聞いていればシューズカバーを持っていないから今日出かけるのは無理だの、欲しいけど高くて買えないだの、シューズカバーを持ってはいるが履くのが面倒臭いだの、次から次へと言い訳ばかり並べやがって! 寒いのが悪い、円安が悪い、製品が悪い・・・あれもこれもすべて他人のせい、というわけだ。お前らは自分の力で事態を打開しようという気概がないのか? ここは俺の体験談を語らなければならないようだな・・・
あれはつい先週、寒い寒い日曜の午後のことだった。
俺はあまりの寒さにいつもの週末ライドを放棄し、徒歩でスターバックスのホット・チャイティーラテと肉まんを買いに行こうとしていた。家で暖かいチャイと肉まんを楽しみながら、のんびりくだらないテレビ番組を見て「テレビというのは本当にくだらないものだな。テレビ局はすべてつぶれたほうがいい」などと悪態をついて貴重な休日を台無しにするという、そういう後ろ向きなアクティビティーに耽るのも、たまには悪くないと思ったのだ。あの日の俺は、心がすさんでいた。
横断歩道を渡ろうとした時だった。1台のANCHOR RNC7 Equipeがスス〜と止まる。つよし先輩ではないか!
俺は途端に居心地が悪くなった。というのも毎週日曜日はいつも朝9時につよし先輩と河川敷で待ち合わせ、100kmほど一緒に走るのが常だったからだ。
「増田じゃないか、どうしたんだ!何故今日は来なかった、こんなに良い天気なのに乗らないのか?すごく気持ちの良い日だぞ!」
「いや、あの、今朝氷点下近かったでしょ、昼間も気温上がらないらしいし、足先が冷たいと、つらいんです・・・」
つよし先輩の顔から笑顔が消えた。
つよし先輩はミラーレンズをかけているので目から表情が読めない。
猫に見つけられた鼠が覚えるであろう恐怖はきっとこういうものに違いない、と俺は思った。
つよし先輩は背中のポケットから愛用のハバナ葉巻・コイーバ シグロ II を取り出し路側帯でRNC7 Equipeにまたがったままターボライターで火をつけてから、言った。
「良かろう。今朝は寒かった。それは認める。それで聞くが、お前はシューズカバーというものを知っているか。クリート付きのロードシューズでも上からスポッと履けるやつだ。あれをつけるとあったかいんだぞ。200kmでも300kmでも走れるぞ。夜でもだ。」
「シューズカバーは持ってますよ。でもボロボロになっちゃって、海外通販で新しいの買おうと思ったら、ほらいま円安でしょ、高くて買えなかったんです。あと履きづらいし、出かけるの億劫になっちゃいますよこの寒さだと。それにアベノミクスの効果もまだ体感できていないし世界は戦争だらけだし、結局アメリカが全部悪いってことでいいんですかね?」
次の瞬間、パァン! という破裂音が1月の寒空にこだました。見ると、つよし先輩の上半身が怒りのあまりパンプアップしてしまい、薄いウィンドブレーカーがボロボロに破けてしまったのだ。まずい、と俺は思った。しかし既に手遅れだった。つよし先輩の表情はみるみるうちに緑色に変色し大胸筋・上腕二頭筋と大腿筋が急激に膨張して行きヘルメットもパァンと割れてジャケットもインナーもブチブチと音を立てて裂けはじめ「うぉぉおおおおおおお!!!!」と獣のような呻き声を挙げてRNC7 Equipeを砲丸投げの室伏のようにぐるぐると水平に何度も回してから俺にむかってぶん投げてきた。
避ける間もなく、つよし先輩の練習用鉄下駄ホイール・Mavic Aksiumが俺の腹部をクリーンヒットする。その勢いで俺は背後にあるビルの3階の高さまで飛ばされ、コンクリートの壁面に背中を打ち付けゲフッと口から鮮血を吐き1階に入っているマツモトキヨシの店頭に落下した。陳列されていた商品が次から次へと俺の上に降ってくる。
店頭に横たわりほとんど白目を向いている俺の頭のすぐ隣に「ホカロン 靴下に貼るタイプ」が落ちている。薄れ行く意識の中で、落ち着きを取り戻したつよし先輩の声が静かにこう言ったのを、俺はよく覚えている。
「お前はそうやっていつも何かのせいにして生きてきたのか。寒いから、円安だから、履きづらいから・・・。そしてこれからも何かのせいにして生きていくつもりなのか。そして何かを諦めて生きていくつもりなのか。乗らない理由を探すより、乗るための工夫を考えてこその自転車乗りじゃないのか? 今日はその『ホカロン 靴下に貼るタイプ』を持って帰れ。金は俺が払っておく」
そうだ、つよし先輩の言うとおり、俺は間違っていたのかもしれない。本当は、こんな寒い日でもつよし先輩と自転車に乗りたかった。俺が本当にやりたいのは肉まんを食いながら「朝まで生テレビ」の録画をぼんやり眺めることではなく、プロテインバーをかじりながら青空の下を自転車で駆け抜けることなんだ。それはわかっていた。しかしあまりの寒さに、俺の心は暗黒面に支配されてしまっていたのだ・・・。人間はなんて弱い生き物だろう。そしてつよし先輩はなんて強いんだろう・・・
RNC7 Equipeに再びまたがったつよし先輩が、「デヤァァァァァァァァ!!」と叫び、走り去っていく。その足には、シューズカバーは装着されていなかった。やがて救急車のサイレンが聞こえ、俺は病院に搬送された。
----------------------------要点をまとめます----------------------------
上で去年の3月にレビューしたホカロンの靴下に貼るタイプ。これはやはり便利な製品です。ソックスの上、爪先を包むように貼ったり、あるいは足の甲の部分に貼るだけでもいいですが、とにかく簡単なので冬場の出発時の心理的負担(着るものが多くて面倒・シューズカバーを履くのが面倒等)を軽減してくれます。
パッケージには40度以上の持続が9時間とありますが、ホカホカは5時間くらいかなと思います。とはいえそれを過ぎて夕方頃になっても「足先が冷たくてもう死ぬ!!」ということにはなりません。熱すぎて火傷しそうなんてこともありません。
シューズがタイトな方だとどうかは不明ですが、私の場合はジャストフィットのSIDI Genius 5でもこれを貼ったからといって違和感はありません。
ちなみにホカロンにこだわりがあるわけではありませんが、コンビニでもよく売っているのが良いです。
価格評価→★★★☆☆ ただの「貼る」タイプよりちょっと高めかも
評 価→★★★★★