購入価格 ¥750
funrideといえば、「サイスポ」や「バイクラ」と並んで知名度・流通度的には御三家に入るサイクル専門誌であると言えるだろう。しかし辛うじて読む部分のあるサイスポに比べて、残る二誌はあまりに質が低いのでここ数ヶ月は買っていなかった。サイクル専門誌はサイスポとB21こと「バイシクル21」そして「チクリッシモ」があればそれで十分という気がする。
さて、今回は気の迷いでfunrideを購入したのでレポートしてみたい。
これまでは語るにも値しなかった雑誌だが、今月号はたいへん良かったのである。
まず購入動機だが、表紙のお姉さんが可愛かったから、では決してない。funrideはいつからか表紙がいつも可愛いお姉さんなのだが、今回の女性は私の好みでは全くない。しかしこれだけでかでかと表紙を飾っているのだから、世間的には美しいモデルさんなのだろう。私は齢を取ってしまったのだろうか。今のヤングはこういう女が好きなのだろうか。どうでもいいが、編集長も変わったようだし表紙の方向性も変えてみてはどうだろうか。同じことを続けることは困難であり価値のあることでもあるが、実は全く価値のないことを繰り返している人達もいるので、軽く注意しておきたい。
どうせならモーターサイクル雑誌のように、フロントジップのジャージを両手でグッと開いた女性ライダーを中綴じピンナップにしてみてはどうだろう。意図していることは同じなのだから、躊躇する必要はあるまい。
で、肝心の中身だが今月号は非常に内容が濃く、楽しく読めた。まず冒頭では「鶴見辰吾のサイクルデイズ」。今回で第三回目になるこのコラム、何か特殊で面白いことが書いてあるかというとそうでもないのだが、文体からこの人の気持ちの良さが感じられる。「大したことが書かれているわけではないが、読んでいておもしろい」という点では「高千穂遥の快楽自転車」も似ている。実はこうした文章を書くのは非常に難しい。
「たっくんの秘自転車レース用語講座」は、上坂卓郎ならぬ「たっくん卓郎」が執筆。これも連載第三回のようだが、今回のテーマは「ガチャ踏み」。「細けぇことはいいんだよ!」と言わんばかりの内容で、そういえば住田修が「住田道場」という名前で似たようなことを書いていたなあ、と思い出す(クリートの位置なんか迷ったらいちばん前のほうにつければいいんや。あと雨が降ったら濡れるだけやろ。雪が降ったら寒いだけやろ。みたいな)。・・・あれっ「住田道場」終わっちゃったのか!
これ以外で新鮮な思いで読めたのが「タカギマサルのやまめの学校 やまめ理論でロードバイクを組んでみた!」である。これはどういう特集かというと、身長158cmの小柄な女性ライダーに対し、
■これまでは440や420mmのフレームが適正と言われてきたのに、440mmのフレームを提案する。
■これまでは小柄な身体に合わせてC-C 380mmのハンドルを使用してきたのに、400mmを使用させてみる。
■身長から算出するとベターであるはずの165mmクランクの代わりに、あえて170mmを使用させてみる。
といったふうに、「バイオナントカ」があるショップの店員さんであればすぐに反対しそうなフォーム・アプローチを提案している。
この特集における女性は結果に満足しているように見える。私は、必ずしもこうしたアプローチが万人に適しているとは思わないし、かといって身長158cmのライダーは420mm以下のフレームしか選択肢はない、といった意見にも否定的である。しかしながら、小さいフレームではシート角が立ちすぎてしまい、その結果適正なサドル後退幅が出ないのは当然だと思うし、直進安定性が犠牲になる傾向も多いだろうというのは予測ができる。クランク長については試したことがないので何も言えないが、私にとってハンドル長は外-外で400mmが「適正」らしいのだが、ヒルクライムと輪行に使用しているバイクでは420mmを使用していて、これがまた具合がいい。ハンドリングの安定感もあるし、呼吸もしやすいので、将来的には全て420mmに変えようかとも考えている。そんなわけで、私は読んでいて「やっぱり正解は自分で探すものだな」と再認識した。
そしてもう一つの特集「台湾で380kmのロングライドに参加」も面白かった。私は個人的に、昨年台湾旅行を経験したので、そのせいもあるのかもしれない。「自転車インフラは日本より進んでいる!」という小見出しは若干大げさな気もするが、基本的に嘘が書かれていない。台湾はそれほどサイクリングやスポーツサイクルに適した土地ではないと思うし、写真で見られるような数多くのサイクリストの姿を見かけるのも稀だが、食い物がうまく、人も親切である。特集によると輪行が非常に充実しているようなので、ぜひ私も次回はチャレンジしてみたくなる。皆さんもぜひ訪れてもらいたい。
(ちなみに以下の「台湾サイクル事情」も参照されたし。)
https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=4025&forum=120こんなふうに、今月号のファンライドは連載・特集記事ともに充実していて驚いた。編集長が変わったとのことだが、そのせいなのだろうか。組織というものはトップが入れ替わったくらいではそう簡単に変わらないし、悪しき風習や良き文化が末代まで残ることが多い。しかし時には非常に優秀なトップが組織の風土を劇的に変えることもあるそうだ。日産はカルロス・ゴーンの代になって社内コミュニケーション(電子メールから電話まで)を英語で行うことになり、結果はもちろん失敗したという本当か嘘かわからない話を聞いたことがある。話が逸れた。で、新しい編集長はきっと頼もしい人なのだろう。私は来月も書店でファンライドを立ち読みし、これが本物の変化なのかを観察してみたい。
ところで、上記の「台湾で380kmのロングライドに参加」という特集は、「基本的に嘘が書かれていない」と書いた。これは重要なことである。嘘を書いていい雑誌と、そうでない雑誌とがある。雑誌に書かれていることを信じて疑わない人もいるのだから、メディアには本当に気をつけてもらいたい。というのも、先日私はNHKで「プロジェクトJAPAN」という番組で日本による台湾侵略について観ていた。その番組では大日本帝国による支配下の台湾で日本式教育を受け(させられ)た人々が、かつての日本への、そして日本人と同化することへの憧憬を語り、同時に敗戦後にいともあっさりと放置されてしまったことに対する憎しみ、そして同化政策の下での差別的待遇についての憤りを吐露していた。
私はその番組を見ていて、激しく戸惑った。あの食い物がうまい国、そしてこちらが北京語を話さないことを察すると、「あなた日本人ですか?」と笑顔で親切に話しかけてきた台湾の人々。あの人々は、実は次の瞬間には血相を変えて「昔はおれらを差別しおって!」と迫ってくるような鬱憤を抱えていたのだろうか。もしそうだとしたら、私は台湾のことをあまりに知らなさすぎる。私の世代でそうしたことを知らないのは当然だというのは、通らない。
しかし、である。そのNHKの放送が、一部の人々によると、非常に恣意的な編集がなされ、日本を極度に自虐的に捉えた「偏向番組」であるとして批判されているという。今度の土曜日には、渋谷で抗議集会のようなものさえ予定されているらしい。私は、「プロジェクトJAPAN」が偏向番組なのかどうかはわからない。テーマ音楽が非常に下品なので、怪しい感じはプンプンしているが、「国際的なパースペクティブから近代日本を捉えなおす」という試み自体は評価しているので、今回の事態は興味深く見守っている。
人生では嘘が必要とされる局面も多々あるが、ドキュメンタリー製作者は基本的に嘘つきであってはいけない。サイクル雑誌とて同じであろう。
台湾と日本の間にはこうしたデリケートな政治的問題もある。しかしそれを踏まえた上で、うまい牛肉麵(にょーろーめん)や小籠包で休憩しつつ環台サイクリングなどできたら、最高である。「細けぇことはいいんだよ!」と言えるためには、まずくぐらなければならないことがあるのである。フレームサイズにしても、政治にしても、雑誌にしても。
価格評価→★★★☆☆
評 価→★★★★☆ (論外の機材インプレ関連を除く)